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2023.10.01

意外に知らないインフルエンザの基礎知識

インフルエンザウイルスは、冬季に流行する呼吸器感染症の代表ですが、最近では季節外れのインフルエンザが流行することがしばしばあります。毎年遭遇するありふれた感染症でありながら、意外にインフルエンザのことはあまり知らない人が少なからずおり、皆さんも検査で二度手間を喰ったり、治療薬に悩んだりする経験があるのではないでしょうか。ここでは皆さんがスムーズにインフルエンザの診療を受けられるようにインフルエンザの基礎知識を解説していきます。

 

1.流行期

季節性インフルエンザは通常、12月ごろから流行が始まり、翌年1月末~3月上旬に感染のピークを迎えます。しかし、最近では新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあり、2年間インフルエンザがいない時期があったり、夏に流行する季節外れのインフルエンザがあったりと、季節感がなくなってきている印象があります。

2.症状と経過

1~3日の潜伏期間のあとに以下のような症状を認めます。

・突然の高熱 ・さむけや震え ・からだのだるさ ・四肢の筋肉痛

・呼吸器症状(咳、鼻水、のどの痛みなど)

・消化器症状(嘔吐、下痢、腹痛など)、

・熱せん妄(うわ言のように意味不明な言動がある) ・熱性けいれん

・異常行動(突然叫び出したり、暴れ出したり不可解な行動をする)

インフルエンザの熱型は、抗インフルエンザ薬を使用しなければ4-5日間ほど39-40℃の高熱が続いた後、1日のみ一旦解熱し、もう1日だけ再発熱を認めた後に解熱するという発熱の山が2回二峰性発熱)あるというのが特徴です。5~7日間で自然治癒します。したがって、登園登校開始基準にあるように解熱を2日間以上確認しないと本当に治ったか判断できないのです。

異常行動を起こす可能性があるため、発熱がある間はお子さんを絶対に1人にしないよう注意して下さい!

 

3.診断・検査

上記1のように症状は一般的なかぜ症状であるため、症状や診察所見のみではインフルエンザ、コロナウイルス、他のかぜのウイルスか判別は不可能です。診察時に「この子はインフルエンザっぽいですか?」と質問されるお母さんがしばしばおられますが、「見た目ではわかりません」というのが正直な答えです。流行時期に発熱を認めるすべての患者さんにインフルエンザの疑いはあります。

診断は一般的には迅速抗原検査キットで行います。鼻腔内に綿棒を約1秒間入れてぬぐい取った鼻腔検体を用いて、約10-20分で結果が出ます

ここで注意が必要なのは検査を受ける時期です。迅速検査キットはある一定の量までウイルス量が増えていないと陽性を検出することができません。インフルエンザウイルスは38℃以上の発熱後48時間以内にウイルス増殖のピークに達するといわれています。時間別の陽性検出率は、38℃以上の発熱から12時間未満では感染者の約30%、24時間未満で約60%、24時間以上で100%です。37℃台の微熱では検出率は極めて低いです。したがって、確実な検査を受ける適切な時期は、「38℃以上の発熱を認めてから24時間以上たってから」がよいとされています。痛い鼻の検査はできれば1回で終わらせてあげたいですよね。どれだけ早くても12時間以上は経過してから検査するのが望ましいです。

発熱直後に医療機関へあわてて飛んできて「インフルエンザの検査をして下さい」と言われても“陰性”が出てしまう確率が高く、この“陰性”は“インフルエンザにかかっていない”のか、“ウイルス量が少なすぎて検査で引っかけられない”だけなのかは判別できないため、発熱から24時間後に再検査が必要になります

ただでさえしんどいインフルエンザ。受診の二度手間を避けるためにも適切な時期に医療機関へ受診しましょう。

 

4.治療

Ⅰ.抗インフルエンザ薬

迅速検査でインフルエンザの診断がつけば抗インフルエンザ薬を処方することができます。但し、前述の通りインフルエンザは抗インフルエンザ薬を飲まなくても自然治癒します

〔作用〕

ウイルスを死滅させるのではなくウイルスの増殖を抑える効果があります。

したがって、ウイルスが最大量まで増殖しきってしまう(38℃以上の発熱出現から48時間後)とお薬の効果がなくなってしまいます。

統計学的には、薬を飲んだ人は飲まなかった人よりも24時間ほど解熱が早いことが示されています。

〔副作用〕

□消化器症状(下痢、嘔吐、腹痛、肝障害)

□皮膚・アレルギー症状(発疹、蕁麻疹、めまい、頭痛)

□精神神経症状(意識障害、せん妄、厳格、痙攣など)

異常行動(急に走り出す、徘徊する、高所から飛び降りる、暴れ出すなど)

ここでよく問題となるのは異常行動です。ただインフルエンザ自身の合併症としても起こりうるため、薬のせいかどうか因果関係は不明です。10代のお子さんに起こりやすいといわれています。異常行動を認めた時点で、薬の使用を適宜中止しても構いません

1)内服薬

内服薬は口から飲むだけなので薬嫌いでない限り手軽に服用できます。お子さんの体重に最適な量を投与するには粉薬が望ましいです。カプセルは1錠の薬剤量が決まっており微調整がきかず小学校中学年以下の小児には薬剤が多すぎたり少なすぎたりするためお勧めできません。対象年齢全年齢になります

□タミフル1日2回朝・夕の内服を5日間行います。カプセルとドライシロップ(粉薬)の2種類の剤形があります。1回失敗しても継続可能です。異常行動などの副作用出現時は適宜中止することができます

□ゾフルーザ初日1回のみ内服することで5日間効果が持続します。錠剤と顆粒(粉薬)の2種類の剤形があります。使用により薬の効かないウイルス(耐性ウイルス)を作ってしまう問題があることから、日本小児科学会では小児への投与は推奨されておりません

2)吸入薬

吸入薬の使用には、キットを口にくわえて勢いよく粉状の薬を一気に吸い込み、その後も口から吹き出さないといった一定の手技が必要です。5歳未満の乳幼児はこういった手技を理解して習得することが難しく、対象年齢吸入手技が確実に行える5歳以上となります

□イナビル初日1回の吸入のみで5日間効果が持続します。但し、1回目を失敗すると再投与ができないため無効になります。また投与後は後戻りができないので、異常行動などの副作用が出た場合は中止することができません

 

□リレンザ1日2回朝・夕の吸入を5日間行います。1回失敗しても継続可能です。異常行動などの副作用出現時は適宜中止することができます

 

3)点滴静注薬

□ラピアクタ点滴で1回投与します(病状による追加投与可能)。胃腸炎症状で頻回に吐く、脳炎・脳症などで意識がなく自分で口から薬が飲めない方に、点滴で血管内に薬を投与します入院を要する中等症~重症の方が対象となります。

Ⅱ.漢方薬

□麻黄湯:熱が出ているのに寒気が強くガタガタ震える、咳が止まらず、節々が痛むなどの症状のある風邪(ウイルス感染症)に対し、からだを温めて発汗を促すことで熱を発散させる作用があります。そうすることで、自分自身の自然治癒力を手助けし、からだの中に入ったウイルスが増えるのを抑え、治癒を促すのです。インフルエンザや新型コロナウイルスによく処方されます。

 

Ⅲ.対症療法

発熱・呼吸器症状・消化器症状に対する薬物治療を行います。お子さんは高熱が続くと飲んだり食べたりしなくなるため、脱水症にならないようこまめに経口補水液などの水分をとらせましょう。食欲低下時はプリンやアイスクリーム、チョコレート、シュークリーム、ピーナッツバター、ウイダーインゼリー、ポテトチップスなどの高カロリーでのど越しの良い食品をあたえるのも良いでしょう。

 

5.予防

1)ワクチンの製造と接種時期

予防の第一はワクチン接種です。インフルエンザワクチンは毎年、厚生労働省がその年の冬の流行を予測して、4種類のワクチン株を選定します。2022年からはA型で2種類、B型で2種類の株に対応する4価ワクチンが製造・供給されています。9月までにワクチンメーカーによって製造され、10月~12月に各医療機関で希望者に接種されます。

2)ワクチンの効果と目的

ワクチンを接種すると、接種後2週間頃から抗体が増え始め、1~2か月後に感染予防効果を発揮します約5か月間は効果が持続します。ワクチンの目的は、インフルエンザにかかりにくくする(絶対にかからないわけではなく、かかった時の症状を軽減する)こと以上に、インフルエンザによる肺炎・脳炎・脳症・心筋炎などの生命に関わる重篤の合併症を予防することに尽きます。したがって、「ワクチン打ったけど、かかったから意味ないやん」という人たちがいますが、重篤な合併症にかからず命を落としたり後遺症をわずらったりすることを避けられた時点で十分な効果があったと考えるべきです。したがって、「打ってもかかるから接種しなくていい」という考え方は間違いです。

3)接種方法

毎年10月頃に上腕(二の腕)に皮下注射します。

◆生後6か月~12歳:2回接種

(1回目と2回目は標準4週間あけて

◆13歳以上:1回接種

4)副反応

□接種した場所の発赤・腫脹・疼痛

 ……接種者の10~20%、2-3日で消失

□発熱・頭痛・さむけ・だるさ(倦怠感)

 ……接種者の5~10%、2-3日で消失

□アレルギー症状(発疹・蕁麻疹・皮膚のかゆみ・呼吸苦)

 ……頻度はまれ

5)インフルエンザ感染後の接種

「ワクチンを接種する前にインフルエンザにかかったのですが、ワクチンは受けた方がよいですか?」

との質問される方がいます。答えは「接種した方がよい」です。

なぜなら、前述のように流行すると予想されるインフルエンザにはA型で2種類、B型で2種類の4種類あるので、4つのうち1つにかかっても他の3つにかかる可能性はあるわけです(既にかかった株には3ヵ月以上は感染しません)。A型にかかった後にB型にかかる人やA型にかかったあと再度A型にかかる人がたまにいるのはそのせいです。また季節はずれのインフルエンザは冬場に流行するインフルエンザと株が異なる可能性が高く、夏にインフルエンザにかかっても冬に再度かかる可能性はあります。

 

6.まとめ

・インフルエンザは突然の高熱や呼吸器・消化器症状で発症し、発熱が2回(二峰性発熱)出て約5~7日間で自然治癒します

・迅速検査をうけるタイミングは38℃以上の発熱が出てから24時間後がよいです。発熱後12時間以内では陰性が出やすく再検査が必要になることが多くなります。

・抗インフルエンザ薬は38℃以上の発熱から48時間以内に使用しないと効果がありません。5歳未満には内服薬のタミフル、5歳以上はタミフルまたは吸入薬のイナビル、リレンザが推奨されます。

・抗インフルエンザ薬には因果関係は不明ですが、異常行動という副作用があるかもしれません。異常行動を認めたときは適宜薬の使用を中止しても構いません

・予防の第一はワクチン接種です。ワクチンの目的はインフルエンザの感染予防と、それ以上に重篤な合併症の予防が大事です。

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